民間団体を中心に構築された河川管理システム
環境白書(総説)(平成8年版:環境庁) 掲載
矢作川沿岸水質保全対策協議会の取組
矢作川は長野県の山岳に源を発し、愛知県中央部を貫流する延長 122kmの河川で、三河湾に注いでおり、流域は愛知、岐阜、長野3県27 市町村に及んでいる。
矢作川は、昭和40年代に、上流部の鉱工業排水や乱開発により濁り、 水稲や沿岸漁業に大きな被害を与えた。また、流域の土地利用が大きく 変化し、水需要の増大や水の汚れをめぐって利害が対立するようになった。
このため、昭和44年に、下流の農業団体と漁業団体とにより「矢作川 沿岸水質保全対策協議会」が組織され、「流域は一つ、運命共同体」を 合言葉に、事業所の排水の水質浄化、造成工事の施工の指導、行政への 働きかけによる乱開発の防止等の活動を展開した。
実績を重ねてゆく中で、水質保全のための土木施工技術の蓄積、環境 管理のための環境アセスメント、環境モニタリング等の科学的な管理 手法の習熟により、水域の管理手法を構築し、行政や事業者と一体と なった活動により大きな成果を上げている。例えば、造成工事中には、 県、市町村、地域住民代表、利水団体代表からなる「公害防止連絡会議」 がもたれ、環境の変化や地域の状況が報告され、事業者における濁水を 出さない施工技術の採用、市町村間での開発調整、事業者の努力に対する 地域の社会的な認知につながっている。(下図参照)
この協議会の活動は、流域市町村により昭和46年に発足した「矢作川 流域開発研究会」(研修会等による担当者の意識改革)、開発事業者により 昭和61年に発足した「矢作川環境技術研究会」(建設工事における濁水 処理技術の研究普及)、下流域住民により昭和48年に発足した「矢作川を きれいにする会」(率先した学習活動、定期的な工場・開発現場の巡回) など地域ぐるみで支えられている。また、地域の環境教育という点でも、 豊田市の小学校で昭和51年から毎日矢作川の水をくみ透視度を計測して いる息の長い取組がある。
また、協議会は、上流の児童を潮干狩りに招待したり、新鮮な魚介類 を山村に運ぶなど上下流域の交流による相互理解の促進を進めている。 平成3年には、交流事業を進めるため、流域市町村により財団法人矢作 川流域交流振興機構が設立されている。さらに、平成3年には、矢作川 の水源にある長野県根羽村と下流に位置する愛知県安城市が、協力して 水源の森を管理し、伐採時にはその収益を分け合う「水源の森分収育林 事業」を始めるなど、水源となる森林の保全にも目を向けた活動を行っ ている。
このように、協議会という民間団体が、濁水を出さないための各方面 への働きかけと対策に関する知見の蓄積と実践、相互理解を得るための 取組を進めたことにより、地域の環境をトータルとして評価する「矢作 川方式」と呼ばれる独自の流域管理システムが地域に定着している。こ の活動は、国連環境計画(UNEP)等の河川、湖沼の流域管理に関する ケーススタディーでも取り上げられている。
環境白書(平成8年版)より抜粋
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